ぎゅってしていい?

 

 

 

 

ばたばたと騒がしい音がする。

上官の憩いの場にいたミカエルとルシフェルはそれぞれ読んでいた本から顔を上げた。

「なんだ?」
「騒がしいな」

間もなくして騒音の現況が顔を出した。

「サディケル?」

ルシフェルはかわいい弟分のサディケルの登場に、怒る気配を消した。
一方顔を出したサディケルは、じ とミカエルを見つめた。

いや、もうジト目に近いかもしれない。

「どうした、サディ?」

ミカエルは若干顔を顰めたが、相手はサディケル。
ミカエルにとってもかわいい弟分だ。

声をかけられたサディケルは、とてとて とミカエルに近づいてきた。

「ミカエル様…」

座っているミカエルに対しては少しばかり見下ろす形になっている。
だが、いつも以上のモジモジとした感じが見下ろされているということをミカエルに感じさせることはない。

「なんか言いたいことでもあんのか?」

ミカエルの声音はいつもの100倍は優しい。

自分に対してのいつもの口調は何なのだろうか。
ルシフェルはそう思わずにはいられない。

「あの…あのね」

「ああ」

何気なく出したサディケルの手を、ミカエルは取る。
その姿は微笑ましいのだが。

 

 

 

「…」

なぜだろう。
ミカエルがやると犯罪のような気がするのは。

一人、難しい顔をするルシフェルであった。

 

 

 

そんなルシフェルを置いて展開される二人の世界。
もともと、ミカエルはそんなに短気ではない。
サディケルの言葉を辛抱強く待っている。

「ミカエル様…、今、お暇ですか…?」
「ああ」

サディの頼みならば、時間がなくたって空けてやるさ。

 
瞳からはそんな想いを感じ取れる。

その瞳で意を決したのか、ゆっくりと口を開いた。

「あのね…、ぎゅって、してほしいの…」
「…、……」

ミカエルは一瞬固まったようだ。
目を瞬かせて、サディケルをじっと見つめている。

「…だめ?」

 
そんなミカエルを見たサディケルは不安な顔をして問うてきた。

「いや…ダメなんかじゃねぇが…。なんでしてほしいんだ?」
「私も気になる」

ミカエルの問いには至極当然なものがあるし、
それ以前になぜミカエルなのか。

私だっていいじゃないか、というルシフェルの無言の攻めが入る。

「ガブリエル様が言ってたんです。『大好きな人と抱き合うと幸せだ』って。
 だから、ミカエル様にぎゅってしてほしいんです」

「そっか」

聞き終えたミカエルはサディケルを優しく膝に抱いた。
抱かれたサディケルはとてもうれしそうに目を瞑った。

「なぜ、ミカエルなんだ?」

無言の問いをスルーされたルシフェルは少々不機嫌そうにたずねた。

「さっき、ハニエル様がミカエル様にぎゅってしてもらってるところを見たんです。
 その時のハニエル様がとても幸せそうだったんで、ボクもしてもらおうって」

「……………」
「……………」

ルシフェルは無言でミカエルを見やる。
ミカエルは無言で顔を背ける。

ミカエルの顔は心なしか青い。

それはそうだろう。
ハニエルは人前でそのようなことをすることを嫌う。

きっと現場は廊下だ。
そして恐らく迫ったのはミカエル。

部下に目撃されていた。
その事実を知ったハニエルがどうするか。

 

 

間違いなくミカエルは地に沈むだろう。

 

「サディ…、そのことは誰にも言うなよ…」

 
ミカエルの蚊の鳴くような声を聞いたサディケルは元気よくうなずいた。

「はい! これからもぎゅってしてくださいね!」

 

 

きっと、聡いハニエルにはすぐに知られるだろう。
サディケルがご機嫌で仕事をしていれば、上官であるハニエルの目に留まるだろう。
そして聞かれる。理由を。

アーメン、ミカエル。

ルシフェルは静かに十字を切った。

 

 

 

 

 

     後書きという名の言い訳     .

ここまでお付き合いくださり、有難う御座いました。

 

リライト様に借りたお題です。
やっぱり書きたいミカとルシの会話。
この二人がすきなんです。
それと同じくらいサディに甘いミカエルが好き。