いつでも君と、共に在る。
最近、ハニエルは悪夢に苛まれているらしい。
どうも、好くない夢らしい。
まぁ、悪夢なのだから当然か。
だが、俺がどんなに訊いても話そうとしない。
「話して現実になったら洒落にならん」…らしい。
だが、そんなことを言われて引き下がる俺ではなく。
今日もしつこく訊いてみた。
が。
あえなく撃沈。
日も暮れ、現在真夜中の3時ほど。
自室で本を読んでいたミカエルもそろそろ眠りにつこうとした時、
遠慮気味に扉が開いた。
「…ミカエル…」
声の主はルシフェル。
珍しい来客にミカエルはと惑いつつも尋ねた。
「お前が俺様の部屋に来るなんて珍しいじゃねぇか」
尋ねられたルシフェルも、ミカエルがいつもの癇に障る喋り方をしなかったためか、
素直に用件を話す。
「実は、先程ハニエルの部屋の前を通ったのだんが、
魘されている様な声が聞こえてきて…。気にはなったんだが、
私が行くよりは、お前が行った方がハニエルも安心するかと思ってな…」
ハニエルを心配してか、ルシフェルもいつもの威圧感が無い。
どちらかと言うと、少しオドオドした感すら見受けられる。
「わーった。俺が行ってくる」
本気で心配しているルシフェルを思うと、眠かったがミカエルはハニエルの部屋へ行くことを決めた。
「眠る所だったんだろう…。起こして済まんな」
ルシフェルはそう言うと本当に申し訳なさそうに眉を寄せた。
ミカエルはそんなルシフェルを見て深いため息をついた。
「何だ? 人が謝っているのに気に食わないのか」
「ちげぇよ。お前も疲れていてだろーに。
子供に心配かけるなんて、アイツも相当参ってんだなって思ってよ」
子供と言う言葉に一瞬反応しかけたルシフェルだったが、
ミカエルが彼なりに自分のことも気にかけていることを聞いて、ふん とだけ返した。
ミカエルがハニエルの部屋に行ったときには、中から声は聞こえてこなかった。
「…おい、ハニエル。 入るぜ」
一応断っては見たが、返事は無い。
ミカエルは気にも留めずに中へ入っていった。
中に入り、ハニエルに近づいたが、静かに眠っているように見えた。
起こそうかどうか迷ったが、ハニエルの顔を見たとき、一瞬息が詰まる。
ハニエルは声こそ上げていなかったが、顔面蒼白で、息も乱れていた。
額には脂汗が滲んでおり、髪は濡れている。
「っおい!! ハニエル起きろ!!!」
ミカエルは頭が真っ白になり、声も押さえず叫んだ。
半ば怒鳴りながらハニエルを揺さぶる。
「う…、ぅわあああぁぁぁ!!!」
間もなくハニエルが絶叫しながら目を覚ました。
勢いよく起き上がったため、ミカエルの胸板に額を強打したが、
それさえ気にせずに荒く息をつく。
「はっ…はぁ…、ミカ…エル…?」
荒い息を整えようともせずにハニエルはミカエルの顔を見た。
ミカエルはハニエルが無事に目を覚ましたことで全身の力が抜け、ベッドに座り込んだ。
「 っ…心配、させんなよ…」
ハニエルは呼吸を整えながら自分の姿を見た。
全身で汗をかき、髪は濡れている。
だが、生きている。
次にミカエルを見た。
本当に心配したのか、大きく息をつきながらハニエルの横に座っている。
彼も冷や汗のようなものを流しているが、生きている。
そう、あれは夢だったのだ。
ただの悪い夢。
「何故お前が私の部屋に居るのだ」
「ルシフェルがお前の魘される声を聞いて、心配して俺のとこまで来たんだよ」
ミカエルは一呼吸をいて真剣にハニエルに尋ねた。
「ここまで心配かけておいて何でもない、は通じねぇぞ」
ハニエルは観念したように悪夢の内容を話し始めた。
空は何処までも赤く色づいた夕暮れ。
空に抱かれるように折り重なった死体。
その上に立つのは六人の賢者。
皆表情は希薄で、虚ろな目をしている。
そこへ一陣の風が吹き、賢者を一人ひとりなぎ倒していく。
倒れた賢者は起き上がれずに、それでも何故か安心したように眠りにつく。
そして最後に残った賢者も死体の山に倒れる。
倒れた賢者は紛れも無く ミカエルだった。
ハニエルは一通り話し終え、一息ついた。
「わぁお。」
「こんな夢を見れば誰だった魘される」
ハニエルはらしくも無く荒い動作でベッドに倒れこんだ。
「私は眠る。出て行け」
ミカエルは呆れた表情でハニエルを見据えた。
「心配してきた奴に言う台詞か、それ」
そういいながらも部屋を後にしようとしている。
そんなミカエルに声がかかった。
「…心配させたな、すまない」
この日を境にハニエルの悪夢は消え去った。
悪夢が現実になるまで、この事柄は誰もが記憶の片隅に追いやって。
そうして破滅へ、確実に歩を進めている。
ここまでお付き合いくださり、有難う御座いました。
リライト様に借りたお題です。 後書きという名の言い訳 .
予知夢をみたハニエル。
強引であり、優しいミカエルが書きたかったんです。
ついでにミカとルシの会話が書けてよかったです。