戦いの果て

 

 

 

 

巨大な研究所の一角    “要観察素体保管室”。
そこには複数の部屋があり、手術後の素体や、状態の安定しない素体が「保管」されている。
つい先日、手術を終えた一体の素体がそこにあった。

 

用意された簡易ベッドの上で、動く一つの影。
 「あ゛あ゛っ…!!」
涙を流し、シーツを握り締めて、“彼”は痛みに耐えていた。

体中を痛みが駆け巡る。
気が狂いそうな痛み中で、彼は叫ぶように言う。
 「こんな痛みでっ…忘れるものかっ!!」
口に出さないと、負けてしまいそうだった。

 

彼は自らを十賢者の素体とした。
それは手術をした素体の殆どが記憶を忘れてしまうと言う副作用を自ら検証するためであった。
彼は研究者ではない。
だが、誰よりもこの研究の重要性を知っている。
大学で多くの資料を目にし、彼は自分を使い、問題を解消しようと決心した。

 

しかし、彼は優秀な学生であるために、命を狙われた。
いつかは優秀な科学者になるであろう彼を、研究者たちは消そうとした。
彼に普通より2倍の痛みを伴う手術を施して。

そんなことだろうとは思っていた。
それでも、負けるわけには行かない。
十賢者にならなくては意味が無いのだ。
人としての短い生は、自分の研究の邪魔になる。
この身を賢者にして、より多くの時間を使って科学を極めるために。

だから忘れるわけにはいかない、自分の記憶を。
 

 

 
 

 

 

無限にも思えるその痛みは唐突に終わりを告げた。
 「・・・?」

気が付くと、そこは真っ白い壁だけが広がる部屋だった。
気を失う前まであった気の狂うほどの痛みは嘘のように消え、
代わりにあったのは喪失感。
何かが自分の中から無くなってしまった感覚。

記憶はある。
自分が誰だったのか、何故十賢者になろうとしたのか。
確かに記憶はあるのだ。

 

しかし

何故そこまでして化学の道に進もうとしたのだろうか。
あの燃えるような情熱はどこへ    

 

 

 

久しく忘れていた、あの頃の記憶。
自分が眠っていたのだと認識したルシフェルは眉を寄せた。
 「熱意など必要無い」

あの時自分の選んだ道は間違いだったと今更になって思う。
人を殺めることなど、してはならないのだと、分かっているから。
しかし、もう後戻りは出来ない。
 「私に必要なのは、裏切りを見極める“瞳”。ガブリエルの野望を叶える為の策を生み出す“頭脳”」

神に背いた罪はいつまで続くのだろうか。

 「何かを望む事などしてはならない」
 

あの頃に、戻れるのなら

 

 

 

 

 

     後書きという名の言い訳     .

ここまでお付き合いくださり、有難う御座いました。

 

『某歌詞で10のお題』、ルシフェル編でした。
テーマは「救いの手は 選ばれた者のみに 差し伸べられる
     恵みの手は 選ばれた者のみに 差し伸べられる」
でした。