目が覚めると、そこは“何か”の巣窟だった。



「何だよ、そのカッコ」
昼を過ぎて部屋から出て来たミカエルは目を丸くした。鼻先に突き付けられた蝶々を目の前から除け、彼は改めてホールを見回す。
「皆してけったいなナリしやがって。コスプレ大会でもしてんのか?」
首を捻るミカエルに、ハニエルは呆れた顔で溜息を吐く。青い蝶の付いた棒をくるりと回して、彼は言った。
「トリックオアトリート、ハロウィンだ」
「てこたぁ、今日は10月31日か」
「フィリア様の意向でな。仮装大会の様な気がしないでもないが…」
「お前のは…魔女?」
面白そうに、ミカエルはハニエルの帽子の先を引っ張る。
「離せ」
ハニエルが、手にした杖でミカエルの手をはたく。ぺしん、と間の抜けた音がして、杖の先で蝶々が舞った。
「お前の分の仮装だ。着替えたらまた降りて来い」
「りょーかい」
そう言って、ハニエルに押し付けられた紙袋を手に、ミカエルは再度上階と繋がるトランスポートに乗り込んだ。



5分程経って、ヴン…という音と共にミカエルが姿を現す。
「よぉ」
と、ミカエルは軽く片手を上げてみせる。その彼を見たハニエルは、鼻を鳴らして一言呟いた。
「似合わんな」
「るせーな。女装趣味の変態野郎に言われたかねぇよ」
「貴様が何を言おうと何ら痛痒は覚えん」
「そりゃどーも」
そこでミカエルはニッと笑って、それから首を回して己の背の辺りに浮いた黒い羽に目をやる。
「にしても、最近のオモチャってのはスゲェな。宙に浮いてんだぜ、コレ」
「作ったのは博士だそうだ」
「うわ、まさしく技術のムダ使いってヤツか」
そうは言いながらも、愉快ではあるのだろう。頻りに背中を気にしているミカエルに、ハニエルが声をかけた。
「今の内に忠告しておいてやろう。命が惜しければ菓子を用意しておけ」
「は?」
説明を求める視線を向けられたハニエルが、後ろのホールを指して言う。
「先程、ガブリエル様が襲われているのを見掛けた。自分の部下を甘く見ない方が良い」
「マジかよ…」
「健闘を祈る」
そんな凶悪なハロウィンなど聞いた事はない。顔を引き攣らせるミカエルを残して、ハニエルは人の輪の中へ戻って行った。





「トリック・オア・トリート!」
サディケルとジョフィエルのお子様組がそろそろ満足し始めた頃、ラファエルと談笑していたハニエルに、ミカエルが背後から抱き付いて来た。“お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ!”の決まり文句と、顔には満面の笑みを浮かべている。
「聞こえなかったか?ハニィ、トリックオアトリート」
「……」
妙に御機嫌なミカエルに対し、一方のハニエルは“しまった”と言わんばかりの苦い顔だ。既に彼の手元には飴玉1つ残ってはいない。それを見透かしたかの様に、ミカエルは告げる。
「別にお菓子じゃなくても、“喰える”モンなら構わねェけど?」
トリック・オア・トリート。
但し、条件提示ではなく換言の“or”。
“お菓子”も“イタズラ”も結果は同じである。合言葉の意味が何であれ、脅迫である事に変わりはなかった。
ハニエルの項で結ばれたリボンを咥え、ミカエルが囁く。
「なぁ、魔女だのなんだのに召喚された悪魔ってのは…」
「誰がお前など喚ぶものか」
「言葉のアヤだろ。そこは聞き流せよ」
「……」
「まぁ、とにかく、そーゆー悪魔の方はだな、喚び出したヤツがしくじったら、」
「…………」
「ソイツのコト、喰っちまってもイイんだってな。なぁ、ハニィ?」
ミカエルの事である。当然こう出る事位、予測は出来た筈だ。そこまで読めなかったハニエルの負けだ。諦め顔で、彼は今日2度目の溜息を吐いた。
「仕方がない。お前の好きにしろ」








     †感謝・感激・雨霰†     .

ハロウィンフリー小説&イラスト、頂きました。

十賢者、しかもミカハニ!!
貰ってくるしかない、と画面の前で一人使命感にとらわれていたのは私です。
期待通りのミカエルの行動に、興奮しっぱなしデスヨ!!
い…癒される…(危険立入禁止)

kyrie-H 様、ありがとうございました!